そんなホアキン・フェニックスと言えば、去年の「ジョーカー」が記憶に新しい。先に言っておくと、小生の感想は、今ひとつだった。
- 主役はホアキン・フェニックス、最高の演技
- ストーリーは「タクシードライバー」へのオマージュ
- 主人公は、その「タクシードライバー」の、デニーロ×スコセッシ監督コンビの「キングオブコメディ」のような、キレるコメディアン
- そしてそのロバート・デ・ニーロが、今度は敵役
- 地下鉄の初めての粛清のシーンは、チャールズ・ブロンソンの「狼よさらば」
- 超エンタメのDCコミックス作品が、上記のような名作群をオマージュする、その野心
- 映像が素晴らしい
- 小人が出てくる
以上のような良い点が多数あるのにも関わらず、今ひとつ、という感想。。。それってホンマに良くないって事やん!
「タクシードライバー」の正式な継承者となると、小生は自身を持って「魂のゆくえ」(2017年)をプッシュしたい。監督はポール・シュレイダー。そう「タクシードライバー」の脚本を書いた男だ。構想50年(タクシードライバーを書いた頃から温めていたという事になる)、そして自身の最高傑作と称している。
イーサン・ホーク演じる主人公は牧師で、小さな教会で説教をしている。しかし、息子の死というトラウマを抱えながら、商業主義に走るメガチャーチや、社会問題などに直面し、愛だの何だのを説く自分と、愛だの何だのだけでは解決できない世界との間の矛盾が膨れ上がり、整合性が取れなくなり、次第に破裂しそうになっていく様を、じっくりと丹念に描いている。こう書くと「タクシードライバー」も同じ様な話ではあるが、やはりポール・シュレイダー、本家本元だな、と思わされた演出がある。
「ジョーカー」では、“銃”が力や強さの象徴として出てきたが、それは50年前に「タクシードライバー」で既にやっていた演出だ。では「魂のゆくえ」で力の象徴として出てくる小道具は?それは“スーサイドベスト”だ。
こういう奴。
テロリストなどが自爆テロを行う時に着用するベストだ。50年の歳月を経て、力の象徴を、銃からスーサイドベストにアップデートした監督の気合いを感じるだろう。
この小道具一つにも象徴されるように、「タクシードライバー」や「魂のゆくえ」、それこそ上に挙げた「キングオブコメディ」や「狼よさらば」などが何故優れた作品なのか?それは、痛烈にその時代を切り取っているから、なのではないかと思う。その時代の風景や空気感はもとより、その時代の社会の問題や情勢に切り込んでいるから説得力があるのだと思う。テロリズムが脅威とされる現代で、スーサイドベストを選んだ、その演出が肝なのである。
その点「ジョーカー」は、主役がジョーカー故に、残念ながらDCコミックスという絵本の中からは出られない。もちろん「タクシードライバー」や「魂のゆくえ」もフィクションで作り話ではあるが、相対的に説得力が弱いと言わざるを得ない。「超エンタメのDCコミックス作品が、上記のような名作群をオマージュする、その野心」が裏目に出てしまったのではないだろうか。ようは、今更DCコミックで「タクシードライバー」の焼き直しをされてもね~「タクシードライバー」を作った張本人は、もっと先行ってるよ~という感想になってしまう。
あと「ジョーカー」は、ジョーカーになるまでの前日譚なので、最後にジョーカーにならざるを得ない。つまり、バッドエンドでしか締めくくれない、という弱点もある。「タクシードライバー」や「魂のゆくえ」の良さは、ラストで“女性という救い”がある所なのだが。。。「魂のゆくえ」における男女感の話、はまた別の機会に。
とにかく「魂のゆくえ」非常にお勧めです。アマンダ・セイフライドもイイよ。